高齢者が運転免許証返納を考える指標

わが国の運転免許制度では、免許取得条件に年齢の規定が設けられている一方で、その返納は運転者本人の意思に委ねられています。令和5年度に発生した交通事故のうち、高齢者による重傷事故が約30%、死亡事故が5%を占めています。運転手としての引き際を考えることも大切です。

1.視覚の衰えを考える!
 人は年齢を重ねるとともにあらゆる身体機能に衰えが現れます。特に車の運転に大きな支障をきたす機能として
目の衰えが上げられます。運転は視覚で捉えた情報が脳で処理され、それぞれの情報に基づいた対処行動が取られ
ます。ところが目から入る情報に誤りが生じると、脳で処理される過程にも誤りが生じることになり、対処行動そ
のものが不的確となります。またそもそも情報の取得ができなかったとしたらどうでしょうか危険情報の取得がさ
れないことや、標識や信号等の見落としが生じ、交通事故や違反のリスクとなるでしょう。
 人の身体的衰えは、40代後半から60歳位に急激に感じるようになります。特に40歳を境に眼球を動かす目の周り
の筋肉が低下し、動体、視力が衰えると言われます。動体視力が衰えると標識や信号を見落とす傾向が見られるこ
とや、相手車両の動きを察知する能力も落ちてくると言われます。動体視力を低下させないために目の周辺筋肉を
鍛える事は重要ですが、動体視力の衰えを抑制できないと感じた時は、運転免許証を返納する1つのポイントとなる
でしょう。
2.運動機能の衰えを考える!
 運転において交通事故リスクとなる身体機能の衰えとして考えられるものとしては股関節の可動域の衰えが挙げ
られます。高齢者になると少しの段差でも「つまずき」が生じることがあります。人が段差を超える時は目で段差
の高さを捉え、その情報を脳に伝えます。脳では段差の高さを計算し、脳から足に指令を出し、どの程度足を上げ
れば段差をつまずかないで段差を超えることができるか情報処理がなされます。ところが、脳からこれくらい足を
上げなさいと指令を出されたとしても、実際に足を上げる高さが足りないときに段差につまずくことになるのです。
 加齢に伴い股関節が拘縮して硬くなってくると思うように足が動かなくなると言われます。高齢の方のアクセル
とブレーキの踏み間違いによる重大な交通事故がしばしばニュースに取り上げられています。アクセルとブレーキ
の踏み間違いも股関節の可動域の低下によりアクセルからブレーキに足を移し替える際、思うように足が上げられ
ずブレーキペダルの側面に足をぶつけてしまい、ブレーキを踏めずアクセルを誤って踏んでしまうことが要因の1つ
と考えられています。普段から段差につまずくことが増えた時は運転免許証の返納を考える指標としても良いかも
しれません。
3.認知能力の衰えを考える!
 車の運転は認知・判断・行動と言われます。あらゆる情報を感覚機関から取得し、脳で処理された情報に基づき
運転行動となります。認知機能が衰えると情報処理が的確にできなくなることや処理速度が鈍くなることもあり、
危険などに対する感受性が鈍化することや危険に対する対処行動も鈍化するようになると考えられています。
 認知機能の衰えを自覚する事は難しいところではありますが、認知機能の衰えは睡眠とも密接に関わり、睡眠の
質が良くないと認知症のリスクが高まってきます。物忘れが増えてきたり、注意力が低下し、空間認識能力が低下
したりするなどの状況が見られた時は、周囲の人が運転免許証の返納を説得することも安心して老後を過ごす重要
なポイントとなるでしょう。